バンコクで暮らす駐在妻は、周囲から「海外で優雅に暮らしている」と見られがちです。
しかし、外から見える暮らしの豊かさと、本人が感じる幸福は必ずしも同じではありません。
日本で続けてきた仕事や人間関係から離れ、夫は仕事で忙しく、慣れない土地で家族の生活を支える。そんな毎日の中で、自分の人生だけが止まったように感じる人もいます。
そこへ、自分の話を聞き、気持ちを理解しようとしてくれる人が現れたら、心が動くことはあるのでしょうか。
この記事では、不倫を肯定したり勧めたりするのではなく、海外赴任で生まれる孤独と夫婦のすれ違いについて、バンコクを舞台にした一木けいさんの小説『結論それなの、愛』とともに考えます。
この記事で考えること
- なぜ海外赴任で孤独を感じるのか
- 駐在生活が夫婦関係に与える変化
- 「自分を分かってくれる人」に惹かれる理由
- 不倫の前に、自分の本音と向き合う方法
- 小説『結論それなの、愛』の魅力
バンコク駐在妻の不倫は、華やかな生活の裏で起きる
バンコクには、日本食、買い物、習い事、病院、住居など、日本人が比較的暮らしやすい環境が整っています。
けれども、便利な街で暮らしていることと、孤独を感じないことは別です。
タイで長く生活し、日本人家庭の暮らしや教育に関わってきた中で感じるのは、海外赴任では夫婦が同じ場所へ移動しても、二人の生活が同じ方向へ進むとは限らないということです。
夫は、新しい職場、部下、取引先、会食などによって人間関係が広がっていきます。
一方で、同行する妻は、日本で続けていた仕事を辞めたり、親しい友人や家族から離れたりして、それまで持っていた社会とのつながりを失うことがあります。
夫の世界が広がる横で、自分の世界だけが小さくなっていく。
その差が、夫婦の間に見えない距離をつくることがあります。
海外赴任家族を扱った研究でも、住み慣れた環境や人間関係を失うこと、生活を一から組み立てる負担、文化や言葉への適応、孤立感などが、家族全体にとって大きなストレスになり得ると整理されています。
駐在妻が孤独を感じやすい4つの理由
1.自分の役割や居場所を失いやすい
日本では仕事をしていた人が、海外赴任を機に専業主婦になることがあります。
家事や子育ては大切な役割ですが、それまで仕事を通して得ていた評価、達成感、収入、社会との接点が一度に失われることもあります。
「自分は何者なのだろう」
「夫の赴任についてきただけの人になった気がする」
そのような感覚は、生活が経済的に安定していても生まれます。
2.夫に話を聞いてもらえない
赴任した夫にも、新しい職場で結果を出さなければならない緊張があります。
帰宅が遅くなり、休日にも仕事上の付き合いやゴルフが入る家庭もあります。
妻が一日の出来事や不安を話そうとしても、夫には聞く余裕がない。
夫は「家族のために働いている」と考え、妻は「私の気持ちを分かろうとしてくれない」と感じる。
どちらか一方だけが悪いわけではなくても、すれ違いは少しずつ積み重なります。
3.狭い日本人社会で比較が起きる
海外では、日本人同士のつながりが生活の助けになる一方、付き合う範囲が狭くなりやすい面もあります。
夫の会社や役職、住んでいるコンドミニアム、子どもの学校や成績、習い事などが話題になり、比較に疲れる人もいます。
日本なら距離を置けた相手とも、学校、送迎、住居、買い物などで何度も顔を合わせます。
人と会っているのに、本音を話せる相手はいない。
そのような孤独もあります。
4.「自分を分かってくれる人」に心が傾く
孤独なときに、自分の話を否定せずに聞き、気持ちを理解しようとしてくれる人が現れると、その存在が大きく感じられます。
恋愛感情より先にあるのは、
「ようやく私を見てくれる人が現れた」
という安心感かもしれません。
不倫は突然始まるように見えても、その前には、寂しさ、承認されたい気持ち、夫婦の会話不足、自分の居場所の喪失などが積み重なっていることがあります。
『結論それなの、愛』が描くバンコク駐在妻の孤独
一木けいさんの『結論それなの、愛』は、2025年2月に新潮社から刊行された恋愛小説です。
著者はタイでの駐在生活を長く経験しており、作品には、バンコクで暮らす日本人女性の閉塞感や、異なる文化の中で人と通じ合おうとする切実さが描かれています。
物語の中心人物の一人であるマリは、バンコクの高級コンドミニアムで暮らす駐在妻です。
コロナ禍で夫が出張先から戻れず、日本にいる母の葬儀にも出席できないまま、一人で深い孤独を抱えます。
そんなマリに声をかけたのが、タイ人青年のテオでした。
夫とは通じなくなっていた気持ちを、言葉も文化も異なるテオは理解しようとする。
この小説が描くのは、単純な「駐在妻の不倫」だけではありません。
人はなぜ、分かってもらいたいと願うのか。
長く一緒にいる夫婦ほど、伝える努力を忘れてしまうのではないか。
そんな問いが、バンコクの湿度や街の空気とともに描かれています。
この小説は、不倫を美化する物語ではない
タイトルやあらすじだけを見ると、駐在妻とタイ人青年の危険な恋を描いた作品に見えるかもしれません。
しかし、読みどころは「夫以外の男性と恋に落ちること」そのものではなく、その前にある夫婦の乾きや、人と通じ合えない苦しさです。
不倫によって孤独が完全になくなるわけではありません。
秘密を抱える苦しさ、家族を傷つける可能性、関係が終わった後の喪失など、新たな問題も生まれます。
それでも人が誰かを求めてしまうほど、理解されない孤独は深い。
本書は、その矛盾を簡単な善悪だけで片付けずに描いています。
不倫へ進む前に考えたい4つのこと
1.本当に欲しいものは恋愛なのか
求めているのは、新しい恋人でしょうか。
それとも、話を聞いてほしい、女性として見てほしい、自分の存在を認めてほしいという気持ちでしょうか。
自分が本当に欲しいものを言葉にすると、別の解決方法が見えることがあります。
2.夫へ本音を伝えられているか
「帰りが遅い」と責めるだけでは、本当の気持ちは伝わりにくいものです。
本当は、寂しいのか、不安なのか、二人で過ごす時間が欲しいのか。
相手を批判する言葉ではなく、自分が感じていることとして伝える必要があります。
3.夫以外の居場所を持っているか
夫婦関係だけに心の安定を委ねると、夫が忙しいときに生活全体が崩れやすくなります。
友人、学び、仕事、運動、地域とのつながり、好きな店など、夫とは別の場所に自分の居場所をつくることも大切です。
大人数の駐在妻グループに無理に入る必要はありません。
本音を話せる一人や、安心して過ごせる場所が一つあるだけでも違います。
4.その先にある現実を受け止められるか
不倫には、相手との別れ、家族との関係悪化、帰国、離婚、子どもへの影響など、さまざまな結果が伴う可能性があります。
「今が苦しいから」という気持ちだけで進まず、その先にある現実まで考える必要があります。
バンコク生活の孤独を小さくするために
- 日本にいる友人や家族との連絡を意識して続ける
- 夫とは別に、自分だけの予定や目的を持つ
- 夫婦で話す時間を、予定として確保する
- 駐在妻同士の比較から距離を置く
- タイ語や現地文化を少しずつ学ぶ
- つらさが続く場合は、専門家や相談機関を利用する
「せっかく海外に来たのだから楽しまなければ」と無理に明るく振る舞う必要はありません。
華やかに見えるバンコクで孤独を感じることは、ぜいたくでも、甘えでもありません。
環境が大きく変われば、心が追いつかない時期があるのは自然なことです。
『結論それなの、愛』をおすすめしたい人
- バンコク駐在生活に孤独を感じている人
- 夫婦の会話が減っていると感じる人
- 海外での不倫を単純な善悪ではなく考えたい人
- タイを舞台にしたリアルな小説を読みたい人
- 「人と通じ合う」とは何かを考えたい人
一木けい『結論それなの、愛』
バンコク駐在妻の孤独と、言葉や文化を越えて人と通じ合おうとする切実さを描いた恋愛小説です。
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まとめ|不倫の前にある孤独へ目を向ける
駐在妻の不倫を、「海外で自由になったから」「刺激が欲しかったから」という言葉だけで説明することはできません。
その前には、仕事や居場所を失った感覚、夫婦の会話不足、異国での孤立、自分を理解してほしいという切実な思いが隠れていることがあります。
もちろん、孤独であれば不倫をしてよいということではありません。
けれども、行動だけを責めても、その人が抱えている孤独はなくなりません。
自分は何を求めているのか。
誰に、何を伝えられていないのか。
『結論それなの、愛』は、バンコクという異国の街を通して、その問いと向き合うきっかけを与えてくれる一冊です。
参考情報
・新潮社『結論それなの、愛』書籍情報
・Filipič Sterleほか「Expatriate Family Adjustment: An Overview of Empirical Evidence on Challenges and Resources」Frontiers in Psychology, 2018
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